育成就労制度では、技能実習制度と異なり、育成就労外国人が自らの意向で育成就労実施者を変更する「本人の意向による転籍」が認められます。ただし無条件ではありません。従前の実施者のもとで分野別運用方針が定める転籍制限期間(1年以上2年以下の範囲で分野ごとに定められ、実施者の判断で1年に短縮できます)を超えて就労していること、分野別運用方針が定める技能試験および日本語能力の試験に合格していること、転籍先が優良な育成就労実施者であり、受け入れる本人意向転籍者が在籍する育成就労外国人全体の3分の1以内(指定区域内から指定区域外への転籍は6分の1以内)であることが要件です。行政書士法人アクティス(鹿児島・熊本を中心に九州全域対応)は、転籍を前提とした受入れ計画づくりをお手伝いしています。

技能実習との最大の違い

育成就労制度で新たに設けられ、受入企業からもっとも多く質問を受けるのが転籍です。技能実習制度では原則として認められていませんでしたが、育成就労では一定の条件のもとで本人の意向による転籍が認められます。

ただし、「本人が希望すればいつでも移れる」制度ではありません。転籍には2つの類型があり、要件がまったく違います。

類型位置づけ転籍制限期間試験の合格
やむを得ない事情による転籍本人に責任のない事情で育成就労の継続が困難な場合の救済不要不要
本人の意向による転籍キャリアアップの選択肢として認められるもの必要必要

やむを得ない事情による転籍

こちらは救済のための仕組みです。運用要領は、該当する場面として次のような例を挙げています。

  • 雇用契約等の条件または待遇と実態の間に、社会通念上、育成就労を継続し難いと認められる相違があり、外国人が是正を申し入れたが是正されない場合
    • 典型的には、雇用条件書や重要事項説明書に記載された条件のとおりに賃金を払わない、正当な理由なく年次有給休暇を取得させない、食費等の過剰徴収を行うことなどが該当します
    • 「雇用契約等」には、宿泊施設の賃貸借契約など雇用契約と密接に関連する契約も含まれます。実際に居住することとなった宿泊施設が説明された条件に反している場合も、相違があるといえます
    • 本人が予期せぬ形で勤務地や宿泊施設が変更され、本人負担額が増加したり生活環境の変化が生じたりした場合も、相違があると認められる場合があります
  • 雇用契約締結時に雇用契約書・雇用条件書等が交付されていない場合、または雇用条件や待遇について母国語で説明を受けていない場合
  • 育成就労の開始後に、実施場所で取り扱う原材料に対するアレルギーや疾病を発症し、継続が困難になった場合

なお、是正の申入れは必ずしも本人が行う必要はなく、相談を受けた機構が是正を要請する場合も含まれます。また、同じ違反と是正を繰り返すような場合には、是正が期待できないものとして、是正を申し入れるまでもなくやむを得ない事情があると認められる可能性があります。ここでいう是正とは、原則として契約違反の開始時まで遡って是正することをいいます。

本人の意向による転籍——3つの要件

こちらが、企業にとって影響の大きい類型です。要件は大きく3つに分かれます。

要件1|転籍制限期間を超えていること

新たな育成就労計画の開始日において、従前の育成就労実施者(複数ある場合は直近の実施者)が育成就労を行わせた期間が、分野別運用方針で定める転籍制限期間を超えていることが必要です。

転籍制限期間は、個別の育成就労産業分野ごとに、1年以上2年以下の範囲で分野別運用方針に定められます。

重要なのは次の点です。

分野別運用方針において転籍制限期間が2年と定められている分野においても、個々の育成就労実施者の判断で当該期間を1年とすることができます。

その場合、育成就労計画の**「育成就労実施者の変更を制限する期間」**の欄に記載されます。転籍を検討する側も、受け入れる側も、まず計画のこの欄を確認することになります。

なお、1度転籍した後に再度本人意向の転籍をする場合は、転籍後の実施者のもとで改めて転籍制限期間を経過する必要があります。

要件2|技能・日本語能力の試験に合格していること

本人意向の転籍には、一定の技能試験および日本語能力の試験に合格していることが必要です。合格が必要な試験は分野別運用方針で定められます。分野別運用方針に定められている試験より高い水準の試験に合格している場合は、当然に要件を満たすものと認められます。

ここで、実施者側の行為について明確な歯止めが置かれています。

育成就労実施者が、転籍を妨害するためにこれらの試験を受けさせない、受験を妨害するなどの行為は、育成就労計画の認定の取消事由となり得ます。また、そのような行為が認められた時点で、育成就労外国人の権利を侵害するものとしてやむを得ない事情があるものとして転籍が認められ得ます。

さらに、転籍の要件となっている技能試験が試験実施機関が実施者の事務所に出向いて行う試験であるときは、実施者は試験場所の提供等、円滑な試験実施のための協力を行う必要があります。試験場所を提供しないことは、試験を受けさせない行為と認められ得ます。ただし、育成就労を行っている場所を試験場所として提供すると生産ラインが止まり経営に重大な影響を及ぼすなど著しく困難な事情がある場合は、他の適切な試験場所を手配して受けさせるなどの措置も認められます。

なお、3年を超えて育成就労期間を延長している場合は、本人意向の転籍は認められません。

要件3|転籍先の育成就労実施者の基準

受け入れる側にも要件があります。

(ア)現に受け入れている育成就労外国人が転籍者等のみでないこと

新たな計画の認定の時点で、通常の育成就労計画に基づき受け入れている育成就労外国人に育成就労を行わせている必要があります。

(イ)本人意向転籍者の割合が一定以下であること

本人意向転籍者の数(今回の転籍で受け入れる者と従来から在籍する者の合計)は、転籍後に在籍することとなる育成就労外国人全体の3分の1以内である必要があります。

さらに、実施者の住所地(法人の場合は本店の所在地)が**指定区域外(いわゆる大都市圏)**である実施者については、指定区域内(地方圏に相当)から受け入れることができる本人意向転籍者の割合は6分の1以内とされています。ただし転籍後に在籍する育成就労外国人が5人以下の場合は、1人までは指定区域内から受け入れることができます。

転籍成立後に在籍する育成就労外国人の総数受け入れられる本人意向転籍者の上限うち指定区域内→指定区域外の上限
1人0人(受入れ不可)0人
2人0人(受入れ不可)0人
3〜5人1人1人
6〜8人2人1人
9〜11人3人1人
12〜13人4人2人
A人A×1/3以下A×1/6以下

なお、やむを得ない事情があると認められて転籍した者、3年を超えて育成就労の期間を延長した者、**妊娠・出産等により育成就労を中断していた者(再開した者を含む)**は、この計算式には含めません。

(ウ)優良な育成就労実施者であること

本人意向転籍者を受け入れる実施者は、新たな育成就労計画の認定を申請する時点および当該計画に基づく育成就労の開始時点のいずれにおいても、規則19条1項2号の基準に適合する優良な育成就労実施者である必要があります。

認定申請時に**優良要件適合書(参考様式第1−36号)**等を提出して優良である旨の通知を受けた実施者は、その後に認定の取消しを受けたなどの事情がない限り、優良適合期間が満了するまでの間、優良な実施者として本人意向転籍者に係る認定申請を行うことができます。

相談の現場から

転籍について、受入企業さまからは決まって 「うちから出ていってしまうのではないか」というご心配をうかがいます。 お気持ちはよく分かります。ただ、制度を読み込むと見え方が変わります。

まず、出ていく側にも、受け入れる側にも要件があります。 転籍制限期間を超えていること、技能と日本語の試験に合格していること。 そして受入れ側は優良な実施者でなければならず、 転籍者は在籍者の3分の1以内という枠もあります。 「気軽に移れる」制度ではありません。

そのうえで申し上げたいのは、この制度は受け入れる側から見れば採用のチャンスでもあるということです。 すでに日本で1年以上働き、技能試験と日本語試験に合格した人材を採用できる仕組みだからです。 ただしそれには、自社が優良な育成就労実施者であることが前提になります。 守りとしても攻めとしても、優良要件を満たしておくことが効いてきます。

最後に一つ。転籍を防ぐために試験を受けさせないという発想は、 計画の認定取消事由になり得るうえ、かえって「やむを得ない事情」として転籍を認める理由になります。 ここは制度の設計として塞がれていますので、その方向で対策を考えないほうがよい、とお伝えしています。

申請取次行政書士 多伊良 壮平

企業として備えておくこと

  1. 自社の分野の分野別運用方針で、転籍制限期間(1年か2年か)と転籍の要件となる試験を確認する
  2. 育成就労計画の**「育成就労実施者の変更を制限する期間」**に何年と記載するかを決める
  3. 優良な育成就労実施者の基準を確認し、満たすための体制を整える(転籍者を受け入れる側に回るためにも必要です)
  4. 技能試験・日本語試験の受験機会を確保する(受験させる義務があり、妨害は取消事由です)
  5. 待遇と育成の中身を含め、選ばれ続ける職場をどう作るかを、制度対応と同じ土俵で考える

なお、人権侵害行為を受けた育成就労外国人が育成就労を継続できるよう、機構において転籍を支援する体制が整備されることとされています。

制度全体は育成就労とは——技能実習と何が違うのか、監理支援機関側の要件は監理支援機関の許可要件をご覧ください。

※ 本ページは出入国在留管理庁・厚生労働省編「育成就労制度運用要領」(令和8年8月)第4章第3節および育成就労法9条の2、同施行規則26条〜28条に基づいて作成しています。 転籍制限期間や要件となる試験は分野ごとに異なります。施行までに運用が追加・変更される可能性があるため、最新の分野別運用方針をご確認ください。

どの法人が何を行うか
在留資格の申請(申請取次)は、行政書士の独占業務のため行政書士法人アクティスが行います。 技能実習の監理(監査・訪問指導)はアクティス事業協同組合(監理団体 許可番号 2012000252)が、 人材のご紹介は職業安定法上の許可が必要なため株式会社FACTer(有料職業紹介事業 許可番号 40-ユ-301067)が対応します。 いずれも関連法人のため、窓口はひとつのままご相談いただけます。