「現場で労災事故が起きてしまった。書類送検されるかもしれないが、いま受け入れている技能実習生や特定技能外国人はどうなるのか」——外国人材を受け入れている企業さまから、実際にこうしたご相談をいただくことがあります。
結論からお伝えすると、労災事故が起きたこと自体で直ちに受入れができなくなるわけではありません。ただし、労働安全衛生法違反として処理された場合、5年間受入れができなくなる可能性は現実にあります。
そして、ここには実務家の間でも誤解の多い点があります。「労働安全衛生法違反で罰金刑を受けると、欠格事由の『罰金刑』の規定に該当する」という説明です。条文を追うと、この理解は正確ではありません。結論は変わらないのですが、効いてくる条文が違います。
この記事では、その建て付けを条文に沿って整理します。
まず結論——入管庁は「労働関係法令違反で5年」と明言している
特定技能運用要領には、次の一文があります。
特に、労働関係法令に違反する行為は、欠格事由(不正行為)の対象となり、5年間特定技能外国人の受入れが認められないこととなり得ることから、法令を遵守した受入れを行うよう留意してください。
労働安全衛生法は当然「労働関係法令」です。ですから、重大な違反があれば5年間の受入れ停止につながり得るという結論は、そのとおりです。
問題は「どの条文で、そうなるのか」です。
誤解されやすい点——「罰金刑の欠格事由」には原則として当たらない
技能実習法第10条は「認定の欠格事由」を定めています(対象は技能実習計画の認定を受ける実習実施者です。監理団体の欠格事由は第26条「許可の欠格事由」で別に定められています)。
その第2号が、罰金刑による欠格事由です。
二 この法律の規定その他出入国若しくは労働に関する法律の規定(第四号に規定する規定を除く。)であって政令で定めるもの又はこれらの規定に基づく命令の規定により、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して五年を経過しない者
注目すべきは「政令で定めるもの」という部分です。条文自体には個別の法律名が一切書かれておらず、対象は技能実習法施行令第1条に列挙されています。
そしてその一覧を確認すると、労働安全衛生法が登場するのは第15号の1か所だけで、しかも次の限定が付いています。
十五 …並びに労働者派遣法第四十五条第七項の規定により適用される労働安全衛生法第百十九条及び第百二十二条の規定
つまり対象は「派遣先が派遣労働者について労安法違反をした場合」に限られます。自社が直接雇用する労働者に対する通常の労働安全衛生法違反は、この罰金刑の欠格事由には入っていません。
特定技能側も同じ構造です。基準省令第2条第1項第4号ロが労働関係法令を列挙していますが、労働安全衛生法が現れるのは派遣特則の項目のみです。
では、どの条文で「5年」になるのか
労働安全衛生法違反が受入れに効いてくるのは、次のルートです。
技能実習の場合——法第10条第9号
九 認定の申請の日前五年以内に出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をした者
罰金刑という「刑の種類」ではなく、不正または著しく不当な行為をしたかどうかという評価で判断される規定です。運用要領も、労働基準関係法令(労働基準法・最低賃金法・労働安全衛生法など)で送検され刑罰が確定した場合を、この号で捉えると整理しています。
あわせて、すでに認定を受けている技能実習計画については、法第16条第1項による認定の取消しの対象にもなります。
特定技能の場合——基準省令第2条第1項第1号
特定技能では、受入れ機関の基準として「労働、社会保険及び租税に関する法令の規定を遵守していること」が求められます。労働安全衛生法違反はここに正面から当たります。
そのうえで、冒頭に引用した運用要領の一文が「5年間受入れが認められないこととなり得る」と述べています。
「罰金刑を受けたから機械的に5年」ではなく、「労働関係法令に違反する行為をしたことが評価される」という建て付けである、と理解してください。
会社(法人)自体が罰金刑を受けるのが典型パターン
「刑罰を受けるのは事故を起こした担当者個人では?」と思われるかもしれませんが、労働安全衛生法には**両罰規定(第122条)**があります。
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第百十六条、第百十七条、第百十九条又は第百二十条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
対象は第116条・第117条・第119条・第120条の4か条に限られ、法人に科されるのは罰金刑のみです。
典型例で追うと、次のようにつながります。
- 墜落防止措置の義務は第21条第2項
- 第21条違反は第119条の対象(法定刑は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)
- 第119条は第122条の対象なので、法人にも罰金刑
- 罰金50万円以下は略式命令の範囲内(略式命令は100万円以下の罰金または科料まで)
このため、現場責任者個人と法人の双方が略式起訴され、双方に罰金という処理が典型になります。
「送検された」「起訴された」段階ではまだ確定ではない
刑事手続の段階ごとに整理します。
| 段階 | 欠格事由への影響 |
|---|---|
| 書類送検 | まだ該当しません。不起訴(起訴猶予)で終われば、そのまま該当しません |
| 略式起訴 | まだ該当しません |
| 略式命令の確定 | ここで該当します。告知から14日以内に正式裁判の請求がなければ確定し、確定判決と同一の効力を生じます |
そして「5年」の数え方には、混同されやすい点が2つあります。
1つ目。 条文は「その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して五年」と二本立てになっています。「罰金を納め終えた日」だけではありません。刑の時効の完成(罰金は確定後3年)や恩赦による執行免除も、起算点になり得ます。
2つ目。 欠格事由に該当し始めるのは略式命令が確定した時点であり、納付日はあくまで「5年のカウントが始まる日」です。確定してから納付するまでの間も、すでに該当している状態です。
影響は「新規受入れ」だけではない
すでに受け入れている場合、技能実習では技能実習計画の認定取消し(法第16条第1項)の対象となり、特定技能では受入れ機関の基準を満たさなくなるため、在留期間更新などの申請が許可されなくなります。
特定技能では、支援計画の義務的支援10項目に「非自発的離職時の転職支援」が含まれています(支援計画の義務的支援10項目)。受入れが続けられなくなった場合、在籍している方の転職支援まで含めた対応が必要になります。
さらに技能実習では、認定取消しに至った場合、違反行為の当時に法人の役員だった方も、個人として5年間欠格事由に該当することがあります(法第10条第8号)。
条文は「違反行為の当時」ではなく「当該取消しの処分を受ける原因となった事項が発生した当時現に」役員であった者、と定めています。
ここで重要なのが「役員」の範囲です。これは運用上の解釈ではなく、条文の括弧書きに書かれた定義です。
役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。)
役員の方が他の会社の役員を兼ねていれば、その会社の受入れにも影響が及びます。
ただし、認定取消しがあれば必ず役員個人も欠格になるわけではありません。第8号には限定条件があり、法第16条第1項第3号による取消しの場合は、当該法人が第2号または第4号に該当したケースに限られます。
誤解されやすいポイント
「労災が起きたら即アウト」ではない
上記のとおり、問題になるのは労働安全衛生法違反として処理された場合です。事故後の是正・再発防止への真摯な取組みは、刑事処分の判断にも影響し得ます。
罪名によって結論が変わる
労災事件では、担当者個人が**業務上過失致死傷罪(刑法第211条)**で処罰されることもあります。この罪は施行令の列挙に入っていないため、罰金刑であればこのルートでは欠格事由に該当しません。
ただし「刑法だから対象外」という理解は誤りです。刑法第204条(傷害)・第206条・第208条(暴行)・第208条の2・第222条(脅迫)・第247条(背任)は、技能実習法第10条第3号に明記されており、罰金刑でも欠格事由になります。
さらに注意が必要なのは、業務上過失致死傷罪の法定刑が「5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」である点です。拘禁刑に処せられた場合は、罪名を問わない包括規定(法第10条第1号「拘禁刑以上の刑に処せられ…5年」)で欠格事由に該当します。
なお、執行猶予付きの拘禁刑であれば、猶予期間を無事に経過した時点で刑の言渡しが効力を失い、資格に関する法令の適用上も欠格事由から外れます(刑法第27条)。
どの法律のどの条文で、どの刑に処せられたのか。 ここの確認が結論を分けます。
「別会社を作れば受け入れられる」と安易に考えるのは危険
前述のとおり、欠格事由の「役員」は登記上の役員に限られず、実質的な支配力を持つ方まで条文上含まれます。欠格事由に該当する会社や役員が背後で支配する新会社は、同じく欠格事由に該当すると判断され得ますし、実態を伏せて申請すれば認定取消しや虚偽申請として、より重い結果を招きます。
組織再編を伴うケースは、必ず事前に専門家や外国人技能実習機構・出入国在留管理局に確認しながら進めるべき領域です。
2027年4月からは育成就労法に移行します
ここまで技能実習法を前提に説明してきましたが、技能実習制度は2027年4月1日に育成就労制度へ移行します(育成就労とは——技能実習と何が違うのか)。
欠格事由の枠組み自体は引き継がれる見込みですが、条文番号は変わります。移行後は根拠条文を読み替えて確認してください。監理団体は監理支援機関となり、その欠格事由は育成就労法第26条に定められています(監理支援機関の許可要件)。
まとめ——企業が今できること
外国人材の受入れを続けるうえで、労働安全衛生法令の遵守は在留資格制度の面からも「事業継続の条件」になっています。
- 労安法違反は「罰金刑の欠格事由」ではなく、「労働に関する法令に関する不正・著しく不当な行為」「労働関係法令の遵守」という評価で効く
- したがって、罰金の額や刑の種類だけを見ても判断できない
- 影響は新規受入れにとどまらず、在籍者の更新・転職支援・役員個人にまで及び得る
日頃の安全衛生体制の整備が最大の予防策であることに加え、万一事故が起きた場合には、労働基準監督署対応の初期段階から、外国人材の受入れへの影響を見据えた対応(処分の見通しの把握、受入れ計画の見直し、在籍する外国人の方への支援)を並行して検討することをおすすめします。
欠格事由への該当性や、該当してしまった場合の対応は、処分の内容・時期・会社の体制によって判断が変わります。ご不安な点があれば、行政書士法人アクティスまでご相談ください。
出典
- 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(第10条・第16条・第26条)
- 技能実習法施行令 第1条(法第10条第2号の政令で定める規定)
- 特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令 第2条・第3条
- 出入国在留管理庁「特定技能外国人受入れに関する運用要領」
- 技能実習制度運用要領(出入国在留管理庁・厚生労働省)
- 労働安全衛生法(第21条・第119条・第120条・第122条)
- 刑法(第27条・第211条)/刑事訴訟法(第461条・第465条・第470条)
※ 本記事は2026年8月時点の情報です。制度は改正されることがあります(技能実習法は2027年4月1日に育成就労法へ移行します)。一般的な情報提供であり、個別の事案の判断を示すものではありません。実際の対応にあたっては専門家にご相談ください。