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ベトナム企業の日本進出を検討する際、「一から日本法人を設立するか、既存の日本法人をM&Aで取得するか」というご相談を受けることが増えています。

結論から言えば、すでに日本で動いている法人があるなら、株式を取得して子会社化するほうが速いケースは少なくありません。法人格・銀行口座・取引実績・従業員をそのまま引き継げるためです。

ただし、外国法人が日本法人の株式を取得する場合、日本の会社法だけでなく**外国為替及び外国貿易法(外為法)**の手続が絡みます。ここを見落とすと、契約日を決めていたのに実行できない、という事故が起きます。

この記事では、ベトナム法人が日本の非上場会社の株式を100%取得して子会社化するケースを念頭に、実務の流れと注意点を整理します。

1. なぜ新規設立ではなくM&Aなのか

新規設立の場合、定款認証・資本金の払込み・登記に加えて、事業を立ち上げるまでの時間がかかります。銀行口座の開設、オフィスの契約、許認可、取引先との与信もゼロからです。

一方、既存法人の株式取得なら、法人格・登記・銀行口座・取引実績・従業員をそのまま引き継げます。日本人役員や日本在住者が代表を務めている法人であれば、その体制を維持したまま資本だけを移すこともできます。

小規模な法人(資本金数百万円規模)であれば譲渡価額も現実的な水準に収まることが多く、「日本進出の初期コスト」として合理的な選択になり得ます。

2. スキームの全体像

典型的な形は次のとおりです。

  • 日本法人の現株主(日本在住の個人など)が保有する株式の全部を、ベトナム法人が譲り受ける
  • 譲渡代金はベトナムから外国送金で支払う
  • 代表取締役は当面そのまま留任し、経営を継続する

このとき必要になる手続は、大きく3系統に分かれます。

  1. 会社法上の手続 — 株式の譲渡承認、株主名簿の名義書換
  2. 外為法上の手続 — 日本銀行を経由した届出・報告
  3. 税務上の手続 — 株主変更に伴う異動届出、譲渡人の譲渡所得申告

3. 最大の落とし穴——外為法の事前届出と「禁止期間」

外国法人が日本の非上場会社の株式を居住者から取得する行為は、外為法上の対内直接投資等に該当します(外為法26条2項1号)。

ここが分岐点です。

  • 対象会社の事業が**事前届出業種(指定業種)**に含まれる場合 → 取引の実行前に事前届出(外為法27条1項)
  • 含まれない場合 → 取得日から45日以内の事後報告(外為法55条の5第1項)

事前届出が必要な場合、届出が受理された日から原則30日間は株式を取得できません(禁止期間)。審査の結果、国の安全等に問題がないと判断されれば禁止期間は短縮され、実務上は2週間程度になる例が多いものの、この期間中にクロージングしてしまうと外為法違反となり、中止命令や株式処分命令、罰則の対象になり得ます。

つまり、「契約書に譲渡実行日を先に書き込んでしまう」のが最も危険です。実務では、株式譲渡契約書の前提条件(Conditions Precedent)に「事前届出の禁止期間が満了または短縮されていること」を入れ、実行日を後ろに動かせる建て付けにしておきます。

契約日を決める前にご相談ください

業種の該当性でスケジュールが決まります。契約書を作ってから届出の要否を調べると、やり直しになります。初回相談は無料です。

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4. IT・ソフトウェア業は特に注意が必要

「うちは製造業でも防衛関連でもないから一般業種だろう」と考えるのは危険です。

2019年の外為法改正以降、情報処理関連の業種が事前届出業種に追加されました。日本標準産業分類でいう受託開発ソフトウェア業(3911)、組込みソフトウェア業(3912)、パッケージソフトウェア業(3913)、情報処理サービス業(3921)などが対象に含まれます。ゲームソフトウェア業を除き、日本標準産業分類上のソフトウェア業はほぼ網羅されているとみておくべきです。

定款に「ソフトウェアの開発」「ITに関する業務のアウトソーシングの受託」と書かれている法人は、事前届出が必要になる可能性が高いと考えておくべきです。

判定は定款の文言だけで決まるものではなく、日本国内で実際に何をしているかで判断されます。第三者から委託を受けて開発しているのか、第三者のデータを処理しているのか、取り扱う個人情報の規模はどうか。逆に、グループ会社内の親会社向けの業務に限られる場合などは、該当しない整理になる余地もあります。

さらに、サイバーセキュリティ関連の役務(サイバーセキュリティ関連サービス業、重要インフラのために特に設計されたプログラム等の提供に係るサービス業など)は「コア業種」に位置づけられ、より厳格な審査対象になります。

この業種該当性の判断が、案件全体のスケジュールを決めます。 契約書の作成より先に、日本銀行(国際局 国際収支課 外為法手続グループ)および事業所管省庁への事前照会を済ませるのが確実です。

なお、指定業種・コア業種の範囲は告示の改正で繰り返し拡大しています。過去の案件で「非該当」だった業種が、現在は該当になっていることもあります。案件ごとに最新の告示で確認してください。

5. 会社法上の手続——譲渡制限株式の承認から名義書換まで

中小企業の株式には、ほぼ例外なく譲渡制限が付いています。取締役会を設置していない会社では、株主総会の承認が必要です。

手続の順序は次のようになります。

  1. 譲渡人が会社に対し、譲渡の承認を請求する(会社法136条)
  2. 会社が株主総会で承認を決議する(会社法139条1項)
  3. 会社が決定の内容を請求者に通知する(会社法139条2項)
    • 請求日から2週間以内に通知しないと、承認したものとみなされます(会社法145条1号)
  4. 譲渡人と譲受人が共同して、株主名簿の名義書換を請求する(会社法133条1項・2項)
  5. 会社が株主名簿を書き換え、株主名簿記載事項証明書を交付する(会社法122条1項)

見落としがちなのが会社法134条です。譲渡制限株式については、136条の承認を受けていない限り、そもそも名義書換の請求ができません。「承認 → 名義書換」の順序は法律上の要件です。

なお、株券不発行会社の場合、株主名簿の名義書換は会社に対する対抗要件であると同時に、第三者に対する対抗要件でもあります(会社法130条1項)。ここを済ませていないと、対外的に「株主である」と主張できません。

6. 準備に時間がかかるのは「ベトナム側の証明書類」

日本側の書類(登記事項証明書、定款、議事録、株主名簿)は比較的すぐに揃います。

時間がかかるのは、譲受人であるベトナム法人の資格証明書と代表者のサイン証明書です。ベトナムでの公証に加え、領事認証と日本語訳が必要になります。取得に数週間かかることも珍しくないため、案件開始と同時に着手すべき項目です。

7. 税務・その他の留意点

  • 譲渡人が日本の居住者である場合、譲受人(外国法人)による源泉徴収は不要です。譲渡人側で譲渡所得(20.315%)の申告を行います
  • 株式譲渡契約書は印紙税法上の課税文書ではないため、収入印紙は不要です
  • 株主の異動については、所轄税務署・都道府県・市区町村への異動届出書の提出が必要です
  • 事前届出を行った場合、株式取得後に実行報告(取得日から45日以内)が必要です。届出を出しただけでは手続は完了しません

8. M&Aによる日本進出の想定スケジュール

事前届出が必要なケースでは、おおむね次のようになります。

ステップ目安
業種該当性の事前照会1〜2週間
事前届出の提出・禁止期間の経過2〜4週間
株主総会の譲渡承認・送金・クロージング1〜2週間
実行報告・税務届出取得後45日以内

着手から実行まで、最短でも1か月半〜2か月を見ておくのが現実的です。「来月から日本で動きたい」という段階では、すでに時間が足りていません。

まとめ

ベトナム企業の日本進出において、M&Aは時間を買う合理的な手段です。ただし、次の4点を押さえないまま契約日を決めてしまうと、やり直しになります。

  • 外為法の事前届出の要否は、対象会社の業種で決まる
  • IT・ソフトウェア関連は事前届出業種に該当する可能性が高い
  • 禁止期間を無視したクロージングは違反になる
  • 契約書は、実行日を動かせる設計にしておく

当事務所では、株式譲渡契約書の作成、株主総会議事録・株主名簿等の会社法書類の整備、外為法に基づく日本銀行への届出・報告まで、一連の手続をまとめてお手伝いしています。役員変更等の登記は司法書士法人アクティスが対応しますので、窓口を分けずに進められます。譲渡所得の申告については、顧問税理士または当事務所の提携先へご相談いただけます。

なお、株式取得後にベトナムから役員を派遣する場合は、経営管理の在留資格の検討が別途必要になります。経営管理ビザは2025年10月16日の改正で要件が大きく変わり、資本金3,000万円以上・常勤職員1名以上・日本語能力B2相当・経営3年以上または修士以上の学位などが基準になりました(改正後の要件の全体像)。

ここで重要なのは、M&Aで既存法人を取得する場合、その法人の資本金や従業員がそのまま在留資格の判断材料になるという点です。資本金が数百万円の法人を取得しただけでは、経営管理ビザの基準には届きません。取得後の増資や採用まで含めて設計する必要があります(資本金3,000万円の「中身」/常勤職員1名以上とは誰のことか)。

M&Aのスキームと在留資格は連動します。日本進出をご検討中のベトナム企業さま、また日本側の受け入れ企業さまからのご相談をお待ちしています。

よくあるご質問

Q1. ベトナム企業が日本の会社をM&Aで買う場合、外為法の届出は必ず必要ですか。

対内直接投資等に該当するため、事前届出または事後報告のいずれかが必要です。何もしなくてよいケースはありません。対象会社の業種が事前届出業種に含まれるかで、どちらになるかが分かれます。

Q2. 手続にはどのくらいかかりますか。

事前届出が必要な場合、業種該当性の照会から実行まで最短1か月半〜2か月が目安です。ベトナム側の証明書類の取得に時間がかかるため、早めの着手をおすすめします。

Q3. 日本の代表取締役はそのままでも問題ありませんか。

株主が変わっても代表取締役を留任させることは可能です。ただし役員を変更する場合は、法務局への変更登記が別途必要になります(登記は司法書士法人アクティスが対応します)。

Q4. 取得した法人でそのまま経営管理ビザを申請できますか。

法人を取得したこと自体で在留資格が得られるわけではありません。改正後の基準(資本金3,000万円以上・常勤職員1名以上など)を満たしているかが別途審査されます。取得する法人の規模によっては、増資や採用が必要になります。

出典

  • 財務省「対内直接投資審査制度について」
  • 経済産業省「対内直接投資審査制度について(外為法)」
  • 日本銀行「外為法の報告書についてよく寄せられる質問と回答(対内直接投資・特定取得に関する報告書・届出書関係)」
  • 出入国在留管理庁「『経営・管理』の許可基準の改正等について(令和7年10月16日施行)」

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件の判断を示すものではありません。事前届出業種・コア業種の該当性は日本銀行および事業所管省庁の判断によります。指定業種の範囲は告示の改正により変わりますので、実際の手続にあたっては最新の告示をご確認いただくとともに、専門家にご相談ください。

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