2025年10月16日の改正で、経営管理ビザの事業規模要件は500万円から3,000万円へ引き上げられました。金額の大きさばかりが注目されますが、実務でつまずくのは金額そのものより「何をこの3,000万円に数えられるのか」という点です。
基準省令第2号ロは、「申請に係る事業の用に供される財産の総額(資本金の額及び出資の総額を含む。)が三千万円以上であること」と定めています。この条文の読み方を、法人・個人事業主に分けて整理します。
法人の場合——「払込済資本の額」で見る
事業主体が法人である場合、判断の対象になるのは次の額です。
- 株式会社 … 払込済資本の額(資本金の額)
- 合名会社・合資会社・合同会社 … 出資の総額
審査では、貸借対照表の「資本金」の額で判断し、登記事項証明書によって実際に事業へ投下されていることを確認する取扱いとされています。
ここで注意したいのが、資本準備金は資本金の額に含まれないということです。会社設立の際、払込金の半分を資本準備金に計上する設計はよく使われますが、経営管理ビザの基準を意識するなら、その設計は不利に働きます。会社設立の登記を依頼する段階で、ビザ要件と合わせて資本金の額を決める必要があります。
借入金を資本金にすることはできない
審査要領には、返済義務のある借入金を資本金とすることは違法とされている旨が明記されています。会社法上も、払込みを仮装した場合には発起人が全額の支払義務を負うと定められています(会社法第52条の2)。
一時的に借りたお金を口座に入れて残高証明を作る、いわゆる「見せ金」が通用しないのは、改正前と変わりません。むしろ金額が6倍になったことで、資金の出どころ(形成過程)の説明はより重要になったと考えるべきです。
新株予約権は計上できる場合がある
新株予約権の発行により、返還義務のない確定した金額がすでに払い込まれている場合は、そのうち将来資本金に計上する額を、3,000万円の計算に算入する取扱いが認められています。
その場合には、次のような資料が求められます。
- 新株予約権の発行に当たり締結された投資契約書(発行要項を含む)
- 締結によって実際に払い込まれた額を証明する資料(通帳の写し・取引明細書の写し)
- 払い込まれた額のうち3,000万円として計上する額について、将来、新株予約権が権利行使された際に資本金として計上することの誓約書等
J-KISS型新株予約権の投資契約書が提出され、雛形の文言が括弧書き以外変更されていない場合には、発行要項の「新株予約権の数」に1個あたりの額を乗じた金額が、払込額と一致すれば計上が認められる、という具体的な取扱いも示されています。スタートアップとして資金調達をしている場合には、検討する価値があります。
個人事業主の場合——「投下されている総額」で見る
事業主体が個人である場合は、資本金という概念がありません。この場合の3,000万円は、当該事業を営むために必要なものとして投下されている総額を指します。審査要領は、次の3つの目的で行われるものがこれに当たるとしています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| a 事業所の確保 | 当該事業を営むための事業所として使用する施設の確保に係る経費 |
| b 雇用する職員の給与等 | 役員報酬及び常勤・非常勤を問わず、当該事業所において雇用する職員に対して1年間に支払われる報酬に係る経費 |
| c その他 | 事業所に備え付けるための事務機器購入経費及び事業所維持に係る経費 |
さらに、引き続き行われている事業の場合は、3,000万円以上の投資が継続して行われていることが必要とされています。初年度だけ3,000万円を投じれば済む、というものではありません。
また、審査では貸借対照表の「資産の部」の額から投下財産を確認しますが、単なる預貯金は事業に投下される財産として取り扱われません。「設備投資に係る契約書の写し」や「雇用契約書」等によって、その預貯金が実際に事業へ投下されることが見込まれることを確認する、とされています。口座に3,000万円を置いておくだけでは足りない、ということです。
自治体の起業支援を受けている場合の特例
見落とされがちですが、地方公共団体が実施する起業支援の対象者に認定され、その自治体が所有または指定するインキュベーション施設に入居する場合には、特例があります。
自治体が申請人に代わって負担していると認められる経費(専有スペースの賃料、共有スペースの利用料、常駐コンサルタントの利用料等)を、最大で年間200万円まで考慮し、申請人が投下している金額と合わせて3,000万円以上となる場合は、基準に適合するものとして取り扱われます。
審査要領には具体例も示されています。自治体が指定するインキュベーション施設と同等の民間施設の賃料が月額8万円のところ、対象者は月額1万円の負担で利用でき、資本金の額または出資の総額が2,916万円以上である場合(月額7万円=年間84万円を自治体が代わって負担していると認められる)、というものです。
この取扱いは新規入国・日本在留中のいずれも対象で、在留中については在留資格を問いません。ただし、自治体の起業支援の対象にインキュベーション施設への入居が含まれていない場合は対象外です。九州各県・各市でも起業支援制度は用意されていますので、利用を検討している方は、制度の内容を早い段階で確認しておくとよいでしょう。
すでに在留中の方へ
改正前から経営管理ビザで在留している方には、2028年10月16日までの経過措置があります。この期間中は3,000万円に届いていなくても、経営状況や適合の見込みを踏まえて判断されます。詳しくは経過措置と更新の考え方をご覧ください。
増資を計画する場合、資金の準備・株主総会・登記という手順を踏むため、思ったより時間がかかります。更新の直前ではなく、決算のタイミングに合わせて計画するのが現実的です。
出典
- 出入国在留管理庁 審査要領 第10節「経営・管理」(第1・3(2)、第2・7)
- 出入国在留管理庁「『経営・管理』の許可基準の改正等について(令和7年10月16日施行)」
- 出入国在留管理庁「『経営・管理』許可基準に係る見直しについて」
※ 本記事は執筆時点の公表資料に基づく解説です。会計・税務上の処理については顧問税理士にもご確認ください。個別の事案の判断は状況により異なります。