会社を経営しながら日本での永住を考えている方から、「事業は順調なのに永住が心配だと言われた」というご相談をいただくことがあります。
2026年8月4日に公表された永住許可ガイドラインの改定案は、この不安を現実のものにする内容を含んでいます。改定案では、世帯年収と将来の年金受給見込額が正面から問われるためです。会社員の方とは異なる、経営者ならではの注意点を整理します。
経営者が不利になりやすい3つの理由
① 役員報酬を低く設定してきた
節税や資金繰りの観点から、役員報酬を抑えて会社に利益を残す設計は珍しくありません。しかし永住審査で見られるのは、会社の利益ではなく、申請者ご本人(世帯)の収入です。
改定案は、申請時点で世帯年収の額が、世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準に継続して達しているかを考慮要素とします。会社が黒字でも、役員報酬が低ければ、この水準に届きません。しかも「継続して」達していることが求められるため、申請の直前だけ役員報酬を上げるという対応では足りない可能性が高いといえます。
② 厚生年金の加入記録が薄い
改定案で新設される年金の要素は、将来の受給見込額が、上記の年収水準で30年間働き、その期間ずっと厚生年金に加入していた場合の水準に達しているかを見るものです。
会社設立から社会保険の加入手続までに時間がかかった、あるいは役員報酬を低く設定していたために厚生年金の記録が小さい——そうした期間は、そのまま受給見込額の低さとして表れます。過去にさかのぼって加入し直すことはできません。
なお、受給見込額が水準に達しない場合でも、申請時点で不足分を補填できる金融資産があると認められれば、水準に達しているものと評価されます。補填資産の基準額は申請時の年齢に応じて決まり、若い方ほど低く設定されます。詳しくは収入・年金の要件の記事をご覧ください。
③ 法人としての公租公課
改定案の国益要件では、公租公課の支払が考慮されます。「公租」には法人税や固定資産税が含まれ、「公課」には公的医療保険・公的年金の保険料が含まれます。
さらに、申請時点で未納がなくても、過去に滞納処分を受けたことがあるなど、過去に適切に支払っていない状況が認められる場合も原則として消極評価とされています。創業期に資金繰りが厳しく、社会保険料の納付が遅れた時期がある——という会社は少なくありません。心当たりがある場合は、記録を確認しておくことをおすすめします。
いつ永住を申請するか決まっていれば、そこから逆算して役員報酬と社会保険を設計できます。司法書士法人アクティスと連携し、登記面もあわせて対応します。初回相談は無料です。
無料相談するいま経営者ができる準備
1. 役員報酬を「永住から逆算して」設計する
改定案の収入に関する要素は、2026年(令和8年)10月ごろから適用される予定です。年金に関する要素は2027年4月1日以降の申請からです。申請予定時期が決まれば、そこから逆算して、複数年にわたり水準を満たす報酬設定に切り替えられます。税務上の判断もあるため、顧問税理士と相談しながら進めてください。
2. 厚生年金の加入記録を確認する
ねんきん定期便やねんきんネットで、これまでの加入記録と将来の見込額を確認します。空白や未納の期間があれば、追納できるものは早めに手当てしておきます。
3. 扶養している家族を整理する
独立生計要件は同一生計世帯単位で判断され、扶養する親族は同居していなくても世帯人数に加算されます。外国に住むご家族を扶養している場合も含まれます。配偶者が「家族滞在」で働いている場合、その収入は世帯年収に合算されない点にも注意が必要です。
4. 日本語能力の証明を準備する
改定案では、国益要件として日本語教育の参照枠のB1相当レベル以上が求められます(高度人材外国人やその家族などの例外があります)。経営者としての実務経験は、それ自体では日本語能力の証明になりません。2027年4月以降の申請を見込む方は、証明手段を用意しておく必要があります。
経営管理ビザの要件見直しとあわせて考える
経営管理ビザについては、2025年10月16日施行の改正で、資本金3,000万円・常勤職員1名以上といった要件の厳格化がすでに行われています(改正の全体像と経過措置はこちら)。
- 経営管理ビザの更新では、事業の継続性・安定性が問われる
- 永住申請では、ご本人の世帯年収と年金・納付の履歴が問われる
この2つは見られているものが違います。会社を守る設計と、ご自身の永住を実現する設計は、必ずしも一致しません。どちらをいつ優先するかを決めたうえで、報酬と社会保険を組み立てることが、遠回りに見えていちばん確実です。
出典
- 出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン改定(案)」および同(概要)(2026年8月4日公表)
- 同「『永住者』の適正化に係るパブリック・コメントの実施について」(2026年8月4日)
※ 本記事は2026年8月15日時点で公表されている資料に基づく解説です。改定案は意見募集の結果により変更される可能性があります。税務・社会保険の取扱いについては、顧問税理士・社会保険労務士にもご確認ください。個別の状況により判断は異なります。