2026年8月4日に公表された永住許可ガイドラインの改定案のなかで、実務上いちばん影響が大きいのが独立生計要件の見直しです。これまで具体的な金額基準がなかったところに、「日本人世帯の平均収入を上回る水準」という物差しが持ち込まれ、さらに年金という新しい項目が加わります。
この記事では、改定案の原文に沿って、収入と年金がどう判断されるのかを整理します。
大前提:判断は「世帯単位」
改定案は、独立生計要件を原則として同一生計世帯の単位で審査するとしています。ここでいう世帯とは、住居および家計を共にしている人の集まりです。単身の方であれば、ご本人の年収がそのまま世帯年収になります。
世帯の数え方には、注意すべき点がいくつかあります。
- **扶養している親族は、同居していなくても世帯人数に加算されます。**外国に住む親族を扶養している場合も含まれます
- 世帯人数が5人以上になる場合は、生活費等の増加分が年収水準に上乗せされます
- 成人しているなど父母の扶養から外れている方の収入は、父母の収入と合算せず、その方自身が年収水準に達しているかを見ます
見落としやすい落とし穴:「家族滞在」の配偶者の収入は合算されない
改定案でとくに注意していただきたいのが、世帯年収に合算できない収入があるという点です。
申請者と同じ世帯の方が、申請者を扶養者とする「家族滞在」など、就労を目的とした在留資格ではない資格で在留している場合、その方の収入は世帯年収に合算されません。資格外活動許可によって例外的・限定的に得ている収入だからです。
なお改定案は、この「就労を目的とした在留資格」から、「技能実習」「育成就労」「特定技能1号」「企業内転勤」および一部の「特定活動」を除くとしています。
つまり、夫婦共働きでも、配偶者が家族滞在で働いている場合は、世帯年収は申請者ひとり分で見られることになります。世帯人数は2人(お子さんがいればさらに増える)として数えられるのに、収入は1人分。この組み合わせが、いちばん厳しく効いてきます。
収入:「日本人世帯の平均収入を上回る水準」に継続して達しているか
改定案は、申請時点で、申請者の属する世帯年収の額が、世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準(年収水準)の額に継続して達しているかを考慮要素とします。
ポイントは2つあります。
- **「平均を上回る」水準であること。**これまでのガイドラインには具体的な金額基準がなく、「将来において安定した生活が見込まれるか」という総合判断でした。改定案は基準を引き上げる方向で明確化しています
- **「継続して」達していること。**申請直前の1年だけ収入が上がった、という形では足りません
なお、具体的な金額そのものは改定案には書かれていません。世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を基準とする、という考え方が示されている段階です。
年金:新しく加わった要件
改定案で新設されたのが年金の項目です。判断の流れは次のとおりです。
① 将来の受給見込額を推計する
申請時点の年齢、これまでの年金の加入状況(自営業・会社員などの働き方)、年金の加入期間、その期間の平均年収、申請時点の年収などから、将来受け取れる年金の見込額(受給見込額)を推計します。
② 「受給年金水準」と比べる
比較の対象は、上記の年収水準で30年間働き、その期間ずっと厚生年金に加入していた場合に受け取れる年金の見込額(受給年金水準)です。この水準に達しているかが考慮要素となります。
③ 足りない場合は金融資産で補える
受給見込額が受給年金水準に達しない場合でも、申請時点で不足分を補填できる金融資産があると認められれば、水準に達しているものと評価されます。この補填資産の基準額は申請時の年齢に応じて決まり、若い方ほど低く設定されます。年金の受給開始年齢まで期間がある方は、これから資産を形成できると考えられるためです。
④ 配偶者がいる場合
申請者と配偶者の受給見込額を合算します。比較の対象も、受給年金水準に、配偶者が同じ期間、被扶養者として国民年金の第3号被保険者であった場合に受け取れる見込額を加算した額になります。補填資産の額も、これに応じて加算されます。
誰に影響が大きいか
年金の要件は、これまでの働き方がそのまま結果に出る項目です。過去にさかのぼって加入し直すことはできません。
- 自営業・フリーランスの方:国民年金のみの期間が長いほど、受給見込額は厚生年金30年相当の水準に届きにくくなります
- 会社の役員・経営者の方:役員報酬の設定によって厚生年金の記録が変わります(経営者の方向けの解説はこちら)
- 転職の合間に国民年金だった期間がある方:加入記録に空白があると不利に働きます
- 国民年金の未納期間がある方:公租公課の支払という国益要件の項目でも消極評価の対象になります
いまできる準備
- ねんきん定期便・ねんきんネットで加入記録を確認する——未納・空白期間があれば、追納できるものは早めに手当てします
- 世帯年収の「継続性」を作る——単年ではなく、複数年にわたって水準を満たしている状態を目指します
- 扶養している親族を洗い出す——外国に住む親族を扶養している場合、世帯人数に加算されます
- 配偶者の在留資格を確認する——家族滞在のままか、就労資格に変更できるかで、世帯年収の見え方が変わります
適用時期
収入に関する要素は2026年(令和8年)10月ごろからの適用が予定されています。改定日の6か月前以降に申請し、改定日の時点で審査中の案件にも適用されるとされているため、すでに提出済みの申請にも影響する可能性があります。
一方、年金の要素は2027年(令和9年)4月1日以降の申請からです。詳しくは申請タイミングの記事をご覧ください。
出典
- 出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン改定(案)」(2026年8月4日公表)
- 同「永住許可に関するガイドライン改定(案)(概要)」
※ 本記事は2026年8月15日時点で公表されている資料に基づく解説です。改定案は意見募集の結果により変更される可能性があります。個別の状況により判断は異なります。