「今期は赤字でした。ビザの更新はもう無理でしょうか」——決算が固まった時期に、いちばん多くいただくご相談です。
結論を先に申し上げると、単年度の赤字だけで更新が否定される仕組みにはなっていません。審査要領は、「事業活動においては様々な要因で赤字決算となり得るところ、単年度の決算状況を重視するのではなく、貸借状況等も含めて総合的に判断することが必要である」と明記しています。
ただし、判断の分かれ目は明確に定められています。この記事では、その基準を整理します。
判断の軸は「剰余金・欠損金・債務超過」
審査要領は決算状況の取扱いを、次の3つの類型に分けています。まず前提として、次の用語を押さえてください。
| 用語 | 意味(どこを見るか) |
|---|---|
| 直近期 | 直近の決算が確定している期(損益計算書を見る) |
| 売上総利益 | 純売上高から売上原価を控除した金額(損益計算書) |
| 剰余金 | 法定準備金を含むすべての資本剰余金及び利益剰余金(貸借対照表) |
| 欠損金 | 期末未処理損失、繰越損失(貸借対照表) |
| 債務超過 | 負債が資産を上回った状態(貸借対照表) |
ア 直近期末に剰余金がある場合、または剰余金も欠損金もない場合
事業の継続性があると認められます。
直近期に当期純利益があり剰余金がある場合はもちろん、直近期に当期純損失となったとしても、剰余金が減少したのみで欠損金にまで至らないものであれば、事業を継続する上で重大な影響を及ぼすとまでは認められない、とされています。
つまり、これまでの蓄えの範囲内での赤字なら、継続性は問題になりません。
イ 直近期末に欠損金がある場合
ここから3段階に分かれます。
(ア)債務超過にはなっていない場合
事業計画・資金調達等の状況により、将来にわたって事業の継続が見込める可能性を考慮し、今後1年間の事業計画書及び予想収益を示した資料の提出を求めたうえで、事業が行われていることに疑義があるなどの場合を除いて、原則として事業の継続性があると認められます。
ただし資料の内容によっては、中小企業診断士・公認会計士・税理士が評価を行った書面(評価の根拠となる理由が記載されているものに限る)の提出をさらに求めて審査する場合もある、とされています。
(イ)直近期末は債務超過だが、直近期前期末は債務超過でない場合
債務超過となると一般的に企業としての信用力が低下し、事業の存続が危ぶまれる状況となるため、継続性を認め難いのが原則です。しかし、債務超過が1年以上継続していない場合に限り、1年以内に具体的な改善(債務超過の状態でなくなること)の見通しがあることを前提として、継続性を認めるとされています。
この場合、中小企業診断士・公認会計士・税理士による改善見通しの評価書面(評価の根拠となる理由が記載されているものに限る)の提出が求められ、これを参考として継続性が判断されます。
(ウ)直近期末・直近期前期末ともに債務超過である場合
債務超過が1年以上続いても解消されなかった場合は、厳しい財務状況が続いていること、1年間で十分な改善がなされていないことから、増資、他の企業による救済等の具体的な予定がある場合には、その状況も踏まえて継続性を判断するとされています。
ウ 直近期・直近期前期ともに売上総利益がない場合
売上高が売上原価を下回るということは、通常の企業活動を行っているものとは認められず、2期連続して売上総利益がないということは主たる業務を継続的に行える能力を有しているとは認められない、として、原則として事業の継続性があるとは認められません。ただし、増資や他企業による救済等の具体的な予定がある場合には、その状況も踏まえて判断されます。
新興企業には柔軟な判断がある
(ウ)の債務超過が2期続いた場合について、審査要領は新興企業(設立5年以内の国内非上場企業)の例外を設けています。
独自性のある技術やサービス、新しいビジネスモデル等に基づき事業を成長させようとする場合、設立当初は赤字が続くことも想定されるため、次の書類の提出を求め、その内容を踏まえた結果、債務超過となっていることについて合理的な理由があると判断される場合には、事業の継続性について柔軟に判断するとされています。
- 中小企業診断士・公認会計士・税理士による改善見通し(1年以内に債務超過の状態でなくなることの見通しを含む)の評価書面(評価の根拠となる理由が記載されているものに限る)
- 投資家やベンチャーキャピタル、銀行等からの投融資、公的支援による補助金や助成金等による資金調達に取り組んでいることを示す書類
- 製品・サービスの開発や顧客基盤の拡大等に取り組んでいることを示す書類
スタートアップとして正面から事業を伸ばそうとしている会社であれば、赤字そのものより「何に取り組んでいるか」を示せるかどうかが分かれ目になります。補助金の採択通知、投資契約書、開発の進捗資料などは、日ごろから整理して残しておいてください。
債務超過が続く場合に確認されること
審査要領は、「債務超過が続くような場合は、資金の借入先を確認するなどし、事業の実態、本人の活動実態に虚偽性がないか確認する」「特に、2年以上連続赤字の場合、本人の活動内容を含め、慎重に調査する」としています。
赤字そのものより、資金がどこから来ているのかを説明できないことのほうが重く見られます。役員借入金でつないでいる場合は、その資金の出どころを説明できるようにしておく必要があります。
すでに在留中の方へ
事業の継続性の判断は、経過措置とは別の話です。改正前から在留している方にも、更新のたびに適用されます。
そして、経過措置の期間中の更新で見られる「経営状況」というのは、まさにこの継続性の判断のことです。資本金3,000万円に届いていない会社ほど、経営状況の説明が重要になります。
対策の順番としては、次のようになります。
- 決算を締める前に、税理士と着地見込みを共有する
- 欠損金・債務超過に至る見込みなら、改善計画と評価書面の準備を始める
- 増資の予定があるなら、そのスケジュールを書面にする(増資は資本金要件の充足にもつながります/資本金3,000万円の「中身」)
決算が確定してから動き始めると、選べる手段が限られます。更新の可否を左右するのは、申請書の書き方ではなく、その前の1年の経営です。
出典
- 出入国在留管理庁 審査要領 第10節「経営・管理」(第2・3 事業の継続性に関する留意事項)
- 出入国在留管理庁「『経営・管理』の許可基準の改正等について(令和7年10月16日施行)」
※ 本記事は執筆時点の公表資料に基づく解説です。会計・税務の処理については顧問税理士にもご確認ください。個別の事案の判断は状況により異なります。