永住許可ガイドラインの改定案では、3つ目の要件である国益要件に、これまでなかった項目が3つ加わります。日本語能力、我が国の制度・ルールへの理解、そして学齢期の子の就学です。
改定案は国益要件の考え方そのものについても、単に国益に反しないという消極的なものにとどまらず、積極的かつ具体的にその方の永住が日本国に利益をもたらす必要がある、と踏み込んだ書き方をしています。この記事では、新設される3項目と、あわせて確認しておきたい既存項目を整理します。
① 日本語能力——「参照枠B1相当レベル以上」
改定案は、永住許可を受けて今後長年にわたり日本に生活の本拠を置き、地域社会に円滑に適応して社会生活を支障なく過ごすためには一定水準の日本語能力が求められる、として、申請時点での日本語能力を考慮要素とします。
具体的な水準は、「日本語教育の参照枠」(令和3年10月12日 文化審議会国語分科会報告)のB1相当レベル以上です。参照枠のB1は「自立した言語使用者」に位置づけられ、身近な話題について筋道立てて説明でき、仕事や学校で日常的に接する事柄に対応できる段階を指します。
本人にB1が求められない場合
改定案は、次のような場合には、必ずしも申請者本人にB1相当レベル以上を求める必要性・相当性があるとはいえないとして、考慮要素としないとしています。
- 申請者が高度人材外国人である場合、またはその家族である場合
- 学校教育法が規定する初等教育または中等教育を累計6年以上受けた場合
- 永住者の子(その子を養育する親がB1相当レベル以上の日本語能力を有し、かつ、子が日本で出生した場合に限る)
日本の小中高校に通った期間が通算6年以上ある方は、この点で不利になりません。一方、来日後に就労し、日本語の試験を受けたことがない方は、申請までに証明手段を用意しておく必要が出てきます。
② 我が国の制度・ルール等への理解
地域社会に円滑に適応せず、問題を引き起こすおそれがある方に永住を許可することは相当ではない、という考え方から、制度・ルール等についての理解が乏しい方や、理解する意欲に欠ける方は消極評価とされます。
確認の方法は、出入国在留管理庁長官が指定する方法により、「生活・就労ガイドブック」に記載されている事項を中心に理解しているかを確認し、一定水準以上に達しているかを考慮する、とされています。生活・就労ガイドブックは入管庁が公表している在留外国人向けの案内で、社会保険、税、交通ルール、ごみの出し方といった日本での生活の基本がまとめられた資料です。
具体的な確認方法(試験形式なのか、講習の受講なのか)は、改定案の段階では示されていません。今後の運用の公表を待つ必要があります。
③ 学齢期の子の就学
外国人のお子さんが日本の地域社会に円滑に適応し、社会生活を支障なく過ごすためには教育を受けさせることが必要である、という考え方から、次の点が考慮要素となります。
- 申請者が学齢期(義務教育の期間)にある子を養育する親である場合は、その子が小学校または中学校に通学していること
- 申請者自身が学齢期にある場合は、申請者が小学校または中学校に通学していること
日本では外国籍のお子さんに就学義務は課されていませんが、永住審査の場面では通学させていないこと自体が消極評価につながる形になります。インターナショナルスクールなど、学校教育法上の小中学校に当たらない学校に通っている場合の取扱いは、改定案からは読み取れません。この点も今後の運用の確認が必要です。
あわせて確認したい既存項目
新設ではありませんが、改定案は既存の国益要件の項目についても考え方を明確にしています。永住申請でつまずきやすいのは、むしろこちらです。
公租公課の支払
「公租」は所得税・住民税・法人税・固定資産税等の租税全般、「公課」は公的医療保険・公的年金などの公的な負担金を指します。これらを適切に支払っていない場合は消極評価です。
重要なのは、申請時点で未納がなくても、過去に滞納処分を受けたことがあるなど、過去に適切に支払っていない状況が認められる場合も原則として消極評価とされている点です。「申請前にまとめて納付すれば大丈夫」とはいきません。なお、この項目も原則として同一生計世帯単位で審査されます。
法に規定する義務の遵守
住居地の届出をはじめとする各種届出義務、在留カードの再交付等に関する義務、在留カードの常時携帯・提示義務、資格外活動の禁止などが対象です。こちらも、申請時点で義務違反の状態にある場合だけでなく、過去の義務違反が判明した場合も原則として消極評価とされています。
転職・転居のときの届出漏れは実務でよく見かけます。心当たりがある方は、申請前に整理しておくことをおすすめします。
公共の負担とならないこと
日本人・永住者・特別永住者の配偶者や子は、法律上、素行善良要件と独立生計要件への適合が不要とされています。ただし改定案は、これらの方についても、世帯が現に公共の負担となっている場合や、そのおそれが現実的である状況にあり、そうなったことに特段の事情が認められない場合には消極評価をすることがあるとしています。
もっとも、この項目については家族単位での在留の安定や人道的な配慮の観点を重視して総合的に判断するとも明記されています。
適用時期
日本語能力、制度・ルールの理解、学齢期の子の就学は、2027年(令和9年)4月1日以降の申請から適用される予定です。「公共の負担とならないこと」は、収入の要素と同じく2026年(令和8年)10月ごろからの適用が予定されています。
日本語の証明やお子さんの就学は、直前に整えられるものではありません。2027年4月以降の申請を見込む方は、いまから逆算して準備することをおすすめします。
出典
- 出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン改定(案)」(2026年8月4日公表)
- 同「永住許可に関するガイドライン改定(案)(概要)」
- 文化審議会国語分科会「日本語教育の参照枠」(令和3年10月12日報告)
※ 本記事は2026年8月15日時点で公表されている資料に基づく解説です。改定案は意見募集の結果により変更される可能性があります。個別の状況により判断は異なります。